前回の記事では、私がなぜ「おしごとスタディ」を作ったのかを書きました。
その中で少し触れたのが、これからの時代に子どもたちに必要になる力についてです。
私は、「学ぶ意欲」「自己効力感」「レジリエンス」という3つの力をとても重要だと考えています。
なぜこの3つなのか。
今回は、AIが急速に普及していくこれからの社会と、私自身のこれまでの経験を踏まえながら、少し掘り下げて書いてみたいと思います。
「勉強ができる」の価値は、これからどうなるのか
最初に断っておくと、私は学力が必要ないと思っているわけではありません。
読み書きや計算、科学的な知識など、基礎的な学力が重要であることは、AI時代になっても変わらないでしょう。OECDも、AI時代に必要なスキルの土台として、読み書き、数的能力、科学的知識などを挙げています。
ただ、「テストで高い点数を取れること」の相対的な価値は、これから変わっていくのではないかと思っています。
これまでの社会では、たくさんのことを知っていること、与えられた問題を正確に理解して、正しい答えを出せることには大きな価値がありました。
もちろん、これからもそうした能力は必要です。
しかし今では、分からないことがあればAIに聞くことができます。文章を書いたり、プログラムを作ったり、データを分析したりすることも、AIが手伝ってくれるようになりました。
だとすると、子どもたちが大人になる頃には、「何を知っているか」だけではなく、AIを使いながら何をするのかが、今よりずっと重要になっているのではないでしょうか。
AIが能力を補ってくれるなら、「何をしたいか」の差が大きくなる
例えば、こんな2人がいたとします。
一人は、とても勉強ができる。でも、自分から特にやりたいことはない。
もう一人は、学力は平均的。でも、「これを実現したい」というものがあり、自分からどんどん動いていく。
私はこれからの時代、後者のような人が活躍できる可能性が、今まで以上に大きくなるのではないかと思っています。
分からないことがあればAIに聞けばいい。苦手な作業はAIに補ってもらうこともできる。
そして、本当にやりたいことがあって行動を続けていれば、その考えに共感する仲間が現れるかもしれません。
自分にない能力を持つ仲間と一緒に取り組めばいい。
スマートではなくても、前に進み続けることはできるでしょう。
だから私は、AIが人間の能力差の一部を埋めるほど、「何をしたいか」という意志の差が相対的に大きくなるのではないかと考えています。
でも、最初から「強烈にやりたいこと」なんてなくていい
では、「やりたいこと」はどうすれば見つかるのでしょうか。
私は、最初から強烈な情熱を持っている必要はないと思っています。
意欲の源泉はいろいろあります。
好奇心。
興味。
誰かへの憧れ。
社会で起きていることへの共感。
もっと成長したいという気持ち。
その始まりは、「なんか面白そう」くらいでいいと思います。
例えば、宇宙飛行士の仕事を知って、「宇宙ってちょっと面白そう」と思う。
教育格差について知って、「勉強したいのにできない子がいるのは嫌だな」と思う。
サステナブルファッションについて知って、「自分が着ている服って、どこで作られているんだろう?」と思う。
そんな、小さな「興味のかけら」が最初です。
大切なのは、それをそのまま流してしまわないことだと思います。
ちょっと面白いと思ったら、半歩踏み込んでみる。
そこでまだ面白かったら、もう一歩進んでみる。
実際にやってみて、「思っていたほど面白くなかった」と気づいたっていい。
そうやって小さな探索を繰り返しているうちに、いつか「これは本当にやってみたい」というものに出会う。
強烈な意欲をいきなり求めるのではなく、小さな興味を次の行動につなげ続ける仕組みが必要なのだと思っています。
日本の若者は「自分が社会を変えられる」と思えていない
もう一つ、私が気になっているのが「自己効力感」です。
自己効力感とは、簡単に言えば、「自分ならできる」「自分の行動によって何かを変えられる」と感じられることです。
日本財団が2024年に日本、アメリカ、イギリス、中国、韓国、インドの17〜19歳各1,000人を対象に行った調査があります。
その中で、
「自分の行動で、国や社会を変えられると思う」
と答えた日本の若者は45.8%でした。
アメリカ65.6%、中国83.7%、インド80.6%などと比べ、6カ国で最も低い結果でした。
また、「自身の将来について夢を持っている」と答えた日本の若者も60%で、6カ国中最下位でした。
もちろん、この一つの調査だけで日本の子ども全体を語ることはできませんが、それでも私は、この結果を重く受け止めています。
「世の中にはいろいろな問題がある。でも、自分が何かをしたところで変わらない」
もし子どもたちがそう感じているとしたら、社会問題についてどれだけ知識を教えても、自分から行動しようとは思わないでしょう。
だから、「知る」ことと同時に、
「自分にも何かできるかもしれない」
と思える経験が必要なのだと思います。
「自分なら何とかできる」は、どうやって作られるのか
これは私自身の経験からも強く感じています。
大学2年生のとき、ゼミを選ぶ機会がありました。
仲のいい友人4人は、「楽そうだから」という理由で同じゼミを選び、私も誘われました。
でも私はその誘いを断って、自分が興味を持った別のゼミを選びました。
問題は、そこでプログラミングが必要だったことです。
当時の私は、プログラミングがまったくできませんでした。
研究室に泊まり込みながら勉強して、何とか研究を進め、最後には研究成果を発表するところまでたどり着きました。
その後の人生でも、似たような選択を何度かしています。
振り返ると、私は何度か「楽な方」と「難しいけれど面白そうな方」の選択を迫られ、後者を選んできました。
もちろん、そのときに成功する保証なんてありません。
でも、「できない」ところから始まって、「苦労したけれど、何とかできた」という経験が少しずつ積み重なった。
それが今の私の、
「困難なことが起きても、自分なら何とかできるだろう」
という感覚につながっているのだと思います。
子どもには、小さな失敗をたくさんしてほしい
だから私は、自分の子どもにも、小さな失敗はたくさん経験してほしいと思っています。
もちろん、心や体に大きなダメージを受けるような失敗からは、大人が守る必要があります。
でも、小さな失敗まで全部大人が先回りして取り除いてしまう必要はない。
失敗する。
困る。
自分で考える。
もう一度やってみる。
そして、ときどき乗り越える。
この経験そのものに価値があると思うからです。
OECDのPISA 2022の分析でも、自己効力感が高い生徒ほど、より難しい目標を設定し、努力し、長く粘り強く取り組む傾向が示されています。また、学ぶことへの内発的な動機と自己効力感には強い関連があります。
OECDは、学習において「学習方法」「モチベーション」「自分を信じること」の3つが相互に関係していると整理しています。そして、こうしたモチベーションや自己認識は固定されたものではなく、教育によって育てることができるとしています。
私はこの考え方にとても共感しています。
興味を持つ。
半歩踏み込んでみる。
挑戦する。
失敗する。
それでも続ける。
乗り越える。
「自分にもできた」と思う。
そして、次はもう少し難しいことに挑戦する。
意欲、自己効力感、レジリエンスは、それぞれ独立した能力ではなく、こんな循環の中で一緒に育っていくのではないでしょうか。
おしごとスタディを「小さく挑戦できる場所」にしたい
おしごとスタディも、ただ動画を見て知識を得るだけのサービスにはしたくありません。
例えば、おしごとスタディにはクエストごとに「フォーラム」を設置しています。
そのクエストをクリアした子だけが、投稿したり、他の子の投稿にコメントしたりできます。
例えば「教育格差問題」のクエストを受けた子に、
「この問題を解決するために、自分なら何をする?」
と考えてもらう。
そして、自分の考えをフォーラムに投稿する。
すると、他の子から、
「それ、いいと思う」
と言われるかもしれない。
逆に、
「でも、それだとこんな人は困るんじゃない?」
という意見が返ってくるかもしれません。
自分の考えが、そのまま受け入れられない。
これも一つの小さな失敗です。
でも、そこで終わらず、
「確かに。じゃあ、こうしたらどうだろう?」
ともう一度考えてみる。
自分の意見を修正して、また投稿する。
そこには、
興味 → 考える → 挑戦する → 思い通りにならない → 考え直す → もう一度挑戦する
という小さなサイクルがあります。
「ちょっと面白そう」から始めればいい
AIがこれからどこまで進化するのか。
10年後、20年後にどんな仕事が残り、どんな新しい仕事が生まれているのか。
正確に予測することは誰にもできません。
だからこそ、私は子どもたちに特定の職業に就くための能力だけを身につけさせるのではなく、環境が変わっても、自分で次の一歩を踏み出せる力を身につけてほしいと思っています。
「何をやりたいのか」
「自分にもできると思えるか」
「うまくいかなくても、もう一度やれるか」
そんな力の価値は、むしろ大きくなっていくのではないでしょうか。
子どもたちの小さな「興味のかけら」を流さず、次の一歩につなげていく。
そして、
意欲 → 挑戦 → 失敗 → 乗り越える → 自己効力感 → 次の挑戦
という循環を作る。
それがおしごとスタディで実現したい教育の一つです。



