「子どものコミュ力を上げたい」「プレゼンスキルを学ばせたい」「自分の気持ちや考えを表現できる子になって欲しい」。そんな親の想いが叶えられる、新しいタイプの子どもの習い事が話題です。
今回は、静岡新聞社・静岡放送がつくった子ども向けプレゼンオンラインスクール「Show & Tell スタジオ」をご紹介します。
\くに先生・あつこ先生/
お話をうかがいました
古藤田 訓昭(ことうだ くにあき)
早稲田大学卒業後、静岡新聞社・静岡放送に入社。海外研修先のシリコンバレーにて、外国人とのコミュニケーション力の差を目の当たりにしたのをきっかけに、次の世代に必要な学びの機会としてオンライン子どもプレゼンスクール「Show & Tell スタジオ」設立を決意。スクール運営と講師を務める。
小野田 敦子(おのだ あつこ)
カリフォルニア州立大学でグラフィックデザインを学び、卒業後、国内企業にてPC・スマホのアクセサリーの商品開発に従事。結婚を機に英語講師になり、幼児から高校生までの英語教育とスクール運営に携わる。また、子どもの表現力を伸ばすことを目的としたアート講座も開催。古藤田氏より熱い要望を受け、「Show & Tell スタジオ」の講師に。
ふだん話す言葉で、相手の心を動かしたい!
いわゆる学問としてのコミュニケーションに偏ると最初からテクニックに走りがちですが、それは私たちの目指すところではありません。表現方法に関してはあまり手を入れず、口語体のまま話してもらっています。
「何を言っても安心・安全な空気の中、子ども達がいきいきと自分の言葉で考えや気持ちを喋って、それを周りの人に認められるという世界観でやりたいな」と、私たちは考えています。正しい表現やテクニック的なことは2次的・3次的なことですね。
テクニックよりも、伝わること。
相手の心に印象を強く残し、感動させ、心を動かす、といったところに重点を置いています。
なぜ、アメリカ人はプレゼンテーションが得意なのか?
日本では馴染みが無い言葉ですが、アメリカで「Show & Tell(ショウ・アンド・テル)」といえば、幼い子どもでも知っているとても身近なキーワードです。幼稚園の頃から始まる基礎教育のひとつで、小学校、中学校、高校、大学とずっと続いていて、社会人になってもビジネス向けの「Show & Tell」があります。
その名のとおり「見せて、説明をする。それに対して質問を受けて、答えられる」という展開ができるスタイルのことです。
アメリカでは未就学児の頃から「言うのも当たり前だし、聞くのも当たり前」だと刷り込まれているので、口喧嘩をしているように見えても生産的なディベートができるし、相手のことを打ち負かすのではなく反証ができるのです。
日本で始めるなら、中学生以降だと遅いと感じますね。なぜなら、空気を読んで発言できなくなったり、質問しなくなったりするからです。「良い質問じゃないと発言してはいけないのではないか……」と、口をつぐんでしまうのです。
小学校の低学年・中学年あたりだと、「それ何?」「何に使うの?」など、気にせずにどんどん発言するのですが、年を経るごとにだんだん難しくなってきます。早い子は小学4年生くらいから、口をつぐんでしまう印象がありますね。
将来的に留学や外国人とのビジネスなどを考えているなら必須のスキルではありますが、日本で暮らす日本人であっても、Show & Tell のスキルを磨いて行くことでコミュニケーション力が上がり、自身の将来の扉も開けてくると考えています。人との関わり方を変えるので、その分、出会いやチャンスに恵まれるからです。
日本では、似たような環境で生まれ育つ人が多いので、自分のバッグクラウンドについて話したり、逆に他人のバッググラウンドを聞いたりする機会は少ないですよね。なぜなら、わざわざ聞かなくてもある程度わかるので。
でも、アメリカでは多様な人が暮らしているので、「あなたのことを短い時間の中でも知りたい」みたいなスタンスがすごくあります。私自身、シリコンバレーで出会った人達のコミュニケーション力の高さに驚かされました。初対面の私が相手であっても、興味を持って相手の話を聞こうとし、自分の考えも伝え、さらに相手から何かを引き出そうとする。
自分のことを話さないといけない必要に迫られる環境を作れないかなと思ったときに、「インターネット上でいろいろな背景がある子ども達と一緒になればできるな」と考えました。まさに現代だから作れた環境ですね。
Show & Tell スタジオ について
対象は小学生、1年生から6年生まで
Show & Tell スタジオ では、小学1年生から6年生までを対象としています。ボリュームゾーンは小学3〜4年生ですが、問い合わせや体験会への参加は1〜2年生が多いですね。
「1・2年生」「3・4年生」「5・6年生」のクラスに分かれていて、それぞれのグループレッスンは5人から最大で20人です。
また、基礎的な「エンジョイコース」と発展系の「チャレンジコース」にも分かれています(チャレンジコースは3年生から)。
テーマは同じです。たとえば本を紹介する月は、すべてのクラスで本をテーマにします。ただしクラスによって、紹介の仕方とか、使っていくスキルとか、語彙の幅に条件をつけていきます。
また、テーマが毎月変わるのはエンジョイコースで、チャレンジコースは3ヶ月ごとにテーマが変わります。
チャレンジコースについて
英語の業界ではよくあるスプリント学習を取り入れています。一定の期間、同じカリキュラムでレベルを上げながらずっと繰り返していくことで定着をはかる学習方法です。
コミュニケーションスキルは、以下の4段階で発展していきます。チャレンジコースのスプリント学習は、ひとつのテーマに取り組む3ヶ月間で対話・交流・討論・説得をぐるっと1回まわします。自分自身のことから始まり、他者と交流し、ショートディベートを行い、最後は自分の信条を展開する。
- 対話
- 交流
- 討論
- 説得
最初の『対話』は、「まずは自分自身のことを話そうね」という自己紹介です。そこから『交流』に発展し、「お友達の発表を聞けるようになりましょう」とか、「それに対して質問できるようになろう」とか、他者への興味関心へと進んでいきます。
そして『討論』では、ディベートやディスカッション。自分と他人の意見の違いを認めつつ、意見を言い合ったり、最適解を探しにいったり。最後の『説得』は、先の3段階を経た上で、更に他人や周囲の意見や考えに触れ、自分をアップデートして人を動かします。具体的には、長いプレゼンテーションやスピーチができるようになります。
アメリカでは、大学を卒業するまでに『説得』までできるようになっているのが望ましいとされています。
Show & Tell スタジオでちょうど今やっているテーマは海洋資源。具体的にはマグロの生態についてです。同じ人の話を聞いても、Aさんは「ここに印象を持った」、Bさんは「ここに問題を感じた」など、自分と他者の意見の違いを感じることができます。
それを、マグロを獲る人・買う人・食べる人の立場に立って、それぞれの言い分に沿って討論をしてみて、最終的には「マグロが無くなったら困るから、どうするのが良い未来なのか?」というのを自分なりの主張を展開します。
Show & Tell スタジオでは1年間のカリキュラムを設定しているのですが、最初の数ヶ月間は対話・交流に比重をおきながらスプリントを回して行き、第4四半期の頃には討論・説得を何回も繰り返し、スプリントを回すごとに上流工程の方に比重をもっていきます。より抽象的で概念的な自分から離れたテーマについても意見や考えが持てるように。
また、知らないことに関しては調べ学習を行います。どこからどういう情報を取ってくるとか、誰にインタビューをしていくとか、情報の真偽をどう裏取りをするかとかを考え、取り組んでいきます。
そうですね。自分で仮説を立てて、それをどんどん立証していくみたいなことを繰り返すのは、まるで報道機関のようですね。
それはまさに親御さんからも言われます。大人がやるようなことを、子ども達が身近な話題として取り組めるようにテーマ選びをしています。マグロだとみんな食べているし。「こうすれば100年先も200年先もマグロが食べられるんじゃないか」みたいな。
チャレンジコースは小学3年生以降が対象ですが、3・4年生クラスからチャレンジコースに入るご家庭は特に教育熱心だと感じます。自宅に図鑑や伝記がいっぱいあるとか、サイエンスやアートにも興味があるとか、朝日小学生新聞が好きで読んでいますとか。僕ら講師が大人の言葉で喋っても、子ども達はほぼ問題なく理解していますね。
幼い頃から大量にインプットしてきて、「あと必要なのは、それを外にどうやって出すか」というところからチャッレンジコースを選択しているというのはありそうです。
エンジョイコースについて
エンジョイコースのテーマは、自分自身のことに関わることで、元々自分の中にあるものを言葉や伝え方を変えて相手にどう印象強く話せるかということに取り組みます。
たとえば、「沢山というのは、それって何個あるの?」「ずっと好きっていうのは、いつから?」などと声掛けして、教え込むのではなく引き出す。「数字や時間を具体的な言葉にすると、相手に伝わりやすくなるんだ」と、その子の中にあるものを引き出してあげます。
自分の中にあるぼんやりとした想いを、ちゃんと言葉にして誰かに伝えて、かつ受け取ってもらって、「あぁそうなんだ」というところまで来ないと自分のものにはならないんですよね。「僕はこう思っているよ」「そうなんだ。でも、私はこう思っているよ」とやりとりがあって、対話・交流のレベルが初めて成立します。
対話・交流の経験が不足したままいきなり「討論してください」と言われても、相手の人となりがわからないので、どの立場に立って意見を言えばいいのかわからないのです。
2つのコースを並列に走らせているので、どっちにしようかと比較検討されるかと思うのですが、現状は皆さんエンジョイコースから始めていますね。まずは1年間エンジョイコースに取り組んできた方が、翌年にジャンプアップしてチャレンジコースにきてくれています。
個別指導について
元々はグループレッスンだけだったんです。あるとき、発表や質問があまり盛り上がらず少し時間が余ったことがありました。咄嗟の判断で「〇〇先生は〇〇さんと、ブレイクアウトルームを使って10分間の作戦会議をしてきてください」と、各自1 on 1の時間を設けたんです。そうしたら、みんなが戻ってきてからの発表が見違えるほど良くなったんです。お互いの質問なんかも活発になって。
そのとき、グループレッスンと個別指導を組み合わせるのが決め手だと気づき、グループと個別を交互におこなうハイブリッドレッスンのやり方に行きつきました。
エンジョイコースの個別指導は、手取り足取りしっかりとサポートをして、安心してグループレッスンでの活動に挑めるようにしています。そのため、長めの時間をとっています。
一方のチャレンジコースは、ある程度自分で準備ができるのを前提としているので、短めの時間設定にしています。箸の上げ下ろしまで言われたく無い段階なので、私達はあまり言い過ぎないようポイントだけを押さえて、「それじゃぁ、あとは自分でアップデートしてきてね。発表楽しみにしているよ」と。指導というよりメンタリングに近いですね。
先生から「それいいね」「これでやってごらん」などと言われると、「よし、それでやってみよう!」と思えるじゃないですか。これがグループレッスンに上手く跳ね返るんです。
先生に確認してもらっているから、安心して次のグループレッスンに参加できます。そこで、お友達からも「いいね」と言ってもらえて、自分の自信もグンと上昇。加えて、お友達の発表もしっかり聞けて、周りの子とのコミュニケーションもすごく上手くできで……と、良いサイクルが回るんです。
個人指導の冒頭で5〜10分の雑談の時間を設けていて、これが結構貴重なんです。友達でもない、親でもない、信頼している先生に、「ねぇねぇ先生聞いて、マインクラフトでこんなことができて……」などと話してくれるんです。「それが何であるか」「それが何故すごいのか」を説明してくれるのですが、既にこれこそがプレゼンなんですよね。本当の意味で。
自分の好きなことを聞いてくれる大人がいるというのは、半分サードプレイス的な部分でもありますね。そういう絶妙なバランス関係です。
宿題は「やりたいからやる」と自主性を高める
言い方としては『おうちワーク』としているのですが、宿題っぽくはしたくなくて、「やりたいからやる」という自主性を育んで欲しいと考えています。
プレゼンテーションは事前準備が重要です。もし、気が乗らなくて準備不足のまま発表に挑むと、しっかりと準備をしてきている周りの子の意見を聞いて、「今回、私は準備が足りてなかったな……」と気づくわけです。
これを個別指導でフォローアップするのですが、自主性が高まってくると、言われたことをただやるだけでなく、そこから更にブラッシュアップしてくる子もいます。やっぱり自分のことだからかっこつけたいですよね。Show & Tell スタジオに来る子は、良い意味で自己顕示欲があるから、「次は負けないぞ、頑張るぞ」と思えればいいですね。
わが子の成長を実感できた瞬間
レッスンを受けている様子をそばで見ている親御さんはお子さんの成長を実感できますし、普段の生活においても、これまで反応が薄かった子がニュースなどに対して自分の意見や主張がでるようになることもありますね。
親の説得に成功して、Nintendo Switchを買ってもらえた子がいましたよ。
「〇〇君が持っているから買って」と親に言っても買ってもらえなかったというので、「それじゃダメだよ。メリットが無いと人は動かないからね。お父さんやお母さんの立場に立って、買ってあげたいと思わせるように考えないといけないよ。そういう視点を持つとお願いの仕方が変わるよ」と、アドバイスしてあげたんです。
そうしたら、「みんな持っていて僕だけ無い」という自分の都合だけでなく、「こういうメリットがあります。こういう約束もします。いかがですか?」と親を見事に説得。
どうやったら、お父さんとお母さんが僕にNintendo Switchを買ってあげたくなるかを想像し、それを言葉で伝えることができました。実生活でも活かせたわけです。
家庭でのサポートについて
そうですね。個別レッスンの予約をしてもらったり、発表用の資料の出力をお願いさせてもらったりすることはあります。
あとは、家庭内でお子さんのインタビュー相手になってもらうこともあります。自分の好きなことをやってみたいことなどがテーマのとき、どうしても他人から見た私は自分じゃわからない。そこで、お子さんから「パパやママから見て、私ってどんな子?」などと聞かれたときは、その質問に答えてあげて欲しいです。
自分を分析する中で、こういうマインドマップを書いてきた5・6年生クラスのお子さんもいます。集中力があるとか、継続力があるとか、ペットを飼って新しい生き物と暮らしてみたいとか。
1・2年生クラスでもこれをコンパクトに実施するのですが、自分自身を深掘りしたときに出てくる意見が高学年の子とは少し違うんです。たとえば、「YouTubeを見るのをやめなさいと言われると、お母さんが嫌いになる」とか、「四次元ポケットが欲しい」とか。幼い子は表現がより素直ですね。遠慮しないというか。
子どもが成長すると、親御さんは「うちの子は何を考えているのかわからない」となりがちです。何か聞いても「別に」とか言われるので。だから、こういう機会を活用して、わが子を定点的に知れるというのは、良い機会になりますね。
あと、お子さん自身もこれを宝物として持っていると、「将来的に何をやりたいのかわからない」「これから先、どうしたらいいんだ」と悩んだ時に、自分のルーツが見えるというのはすごい強みになると思います。加えて、これを続けていると自分の変化や成長も見ることができますね。
無料体験レッスン(体験会)について
現在は体験会ということで、体験用のレッスンをご用意しています。日程は2日間設けていて、1日目は「Show & Tell スタジオではこんなことをやるんだよ。次は発表会だから用意してきてね」などとお伝えし、2日目に発表を行います。
体験会では、自分の宝物や好きなことをテーマにしています。
ここで、「自分の好きなことや宝物を紹介するのがこんなに楽しいんだ!」と、気づいてくれる子がいます。自分に宝物が本当にあって、それを蔵出しというか……。たとえば、小学3年生の男の子が「僕が毎日一緒に寝ているぬいぐるみです」なんて話してくれるんですよ。こんなの人に紹介したことなかったみたいな感じで、驚きつつも目をキラキラさせながら。そんな姿がすごく可愛いんですよね。
これを嬉しいと感じる子は入ってくださっていますね。テーマがいろいろ変わっていきながら続いていくのは楽しそうだなぁ、と。
ぜひ、まずは体験に参加して、お子さんの反応や姿勢を見てみてくださいね。意外な一面も知れるかもしれませんよ。
オンラインだけでなく、リアルなイベントの場も設けたいですね。あとは、夏休みや冬休みなどに短期のレッスンも実施していきたいと考えています。
それと、Show & Tell スタジオを巣立った中学生や高校生のための受け皿も将来的にできたらな、と思いますね。そして、そういう方達が大学生や社会人になったら、今度は講師として戻ってきてもらう……というサイクル(笑)
はい、こちらこそありがとうございました。
ご協力:FUJIYAMA BRIDGE LAB株式会社
古藤田訓昭様 / 小野田敦子様
取材:犬塚亮(株式会社スクルー 代表取締役)
ライター:北野啓太郎